音読の効果を向上させる3つのポイント

音読という学習方法を最初に耳にしたのは1980年代のことです。大学に入学した私は、幸運なことに故國弘正雄先生にお目にかかる機会がありました。所属していた英語クラブに先生が時々お越しになり、英語や国際関係のことなど、直接話を聞く機会に恵まれたのです。当時は大学での授業以外にニュースキャスターの仕事もなさっており、上品で紳士的な方だろうと思っていたのですが、この期待はいい意味で裏切られました。

一言でいうと、國弘先生は「熱い男」でした。オーラがあり、最初はテレビでの印象通りニコニコと話をされていたのですが、戦争と平和のことになると表情と話しぶりが一変しました。機関銃のように連射される言葉の数々、戦争を嫌悪し、こぶしで激しく机をたたきながら怒りをあらわにするその姿に、高校を出たばかりの私はただただ圧倒されました。英語が敵性語であった中学生時代に執拗なまでに音読に取り組んだ先生の行動の根底に何があったのか、平和な時代に育った私に即座に答えは見出せませんでした。ただし、自分がこの先大学でどのように英語を学ぶべきか考えるための大きなきっかけになったと思います。

その國弘先生は、『英語の話し方-国際英語のすすめ』という本を書いています。30年以上も前に書かれた本ですが、今でも学ぶことは多いと思っています。興味のある方は一読されることをお勧めします。ちなみに、当時の國弘先生は、高度な通訳者として世の中から見られていたのだろうと思います。しかし先生は本来、文化人類学や比較思想史を専門とする研究者であり、英語の技術的な側面に過度に重きを置いて語られることに心底同意していたのかどうかは疑問です。『英語の話し方-国際英語のすすめ』で語られているいくつかのキーワードについても、広大な思想のごく一部を占めているにすぎず、それらを恣意的に取り出して一人歩きさせないよう注意しながら解釈することが重要だと思います。以下、そのことに注意しながら述べてたいと思います。

同書の中で先生は只管朗読という学習方法について説明しています。只管朗読という学習方法についてはここでは細かく立ち入りませんが、当塾では大学受験対策を含め、すべての授業ですべての生徒に対して音声指導を取り入れています。英語習得において音声指導が重要なのは言うまでもありません。同時に、受験対策と音声指導の高い次元での両立がいかに難しいかは、予備校や大手進学塾の集団授業をご存じであればご理解いただけると思います。そこで、ふだん授業で心がけ、実践していることの一部をご紹介します。上級者やプロであれば当たり前のことだと思われるかもしれませんが、中学生・高校生に対して日々実践させることを念頭に置きながら読んでください。

 

1. 内容が理解できている英文・テキストを使用

 

最初は内容が理解できている短文から始めましょう。音読自体は内容がわからなくても楽しめると思います。事実、私は学生時代に英語のほかにドイツ語、フランス語、ロシア語の基礎レベルまで学習しました。文法自体はほとんど覚えていませんが、発音の感覚やルールは今でも体が覚えていて、文章によっては内容がわからなくても音読が可能です。したがって特に詞や音楽などを通して言葉の持つ音自体を楽しむというのも大いにアリだと思っています。ただし、英語習得の初期あるいは途上にある中高生の場合は、内容が理解できていないとただのBGMになってしまいます。授業では、音読で使用する英文を一人一人に対して細かく指定します。

 

2.マルチ・タスクとして意識・実践することで効果が倍増

 

大学入試や英検、TOEFL等のスコアアップを狙う場合は、パッセージの内容理解を第一義とすべきです。これは「習得のレベル」です。ただし、やる気のある生徒の場合はそこからさらに一歩、二歩、三歩先に進んで音読を実戦します。易しい英文で純粋に発音練習として取り組むのもよいし、読解で苦労したテキストを使うのもいいと思います。この場合は、「速読・即解」を念じながら実践してください。一度は内容を完全に理解した難易度の高い英文を使用し、音声でのアウトプットと内容確認をマルチ・タスクとして意識しながら行うことで、大きな効果が得られます。

これをすべての内容が速読・即解できるまで行います。これは「体得のレベル」です。要は、スポーツや武道の稽古と同じく、頭と体が一体になる感覚が得られるまで実践するということです。簡単な内容ばかりでは脳に負荷がかかりません。経験則ですが、難易度の高い英文を精読した後は、そこからさらに音読を行うことで、読解力が大きく向上します。最初は難しくて冴えない表情をしていた生徒の顔が、最後は「1回読んだだけでわかる!」と笑顔に変わります(本当です)。

 

3.試験対策では完璧を目指す

 

英検や大学受験、TOEFL等で実力アップを図りたい場合は、文法や読解、解答手順を理解した後、受験するレベルや級のリーディング・リスニングの英文について、個々の単語の発音も含め、完璧に近いレベルまで音読・シャドーイングを続けます。実際当塾では、各自が受験する試験の英文はすべて音読・シャドーイングできるよう指導・実践しています。このような指導の成果は大きく、たとえば中学2年生で実用英検2級のリスニングのスコアが90%を超えるまでに向上しています。これは生徒にとっては大きな自信になります。きちんとしたトレーニングをしていないと、大学受験生ですらセンター試験レベルのリスニングで苦労します。一方、中学生でもやり方次第で大きく実力アップを図ることができます。