「精読」していますか?

英語指導者(プラス通訳・翻訳者)の肩書きを得て約30年になります.
その間,学生時代と卒業後は主に首都圏で,ここ10年くらいは富山で指導しています.

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首都圏では,海外への留学を希望する高校生も一定数いましたが,富山では,土地柄の影響か,国内志向がとても強いと感じます.高校生が中心ですが,保護者の希望もあり小学生から指導を開始することもあります.

また,時代ごとに,大学が求める英語力も,大きく変化してきたように思います.細かく見れば,大学ごとに個別入試が行われる日本では,入試問題に各大学の傾向(出題者の思い)が色濃く表れています.

受験生にしてみれば,入試は原則1回きりの試験です.多くの生徒にとっては合格するかどうか(のみ)が大切であり,出題される英文に出題者の思いや苦悩を見いだすことはまれと言ってよいでしょう.

入試問題の観点から見れば,やはり時代の影響を受けながら,あるいは先取りしながら,特に旧『センター試験』や『共通テスト』に見られるように,今の形に落ち着いているという印象です.

私が受験生だった1980年代は,参考書の定番と言えば,『英文標準問題精講』や『和文英訳の修行』でした.しかし何よりも「英語の音声」に魅力を感じていた私にとって,テキストの定番は『アメリカ口語教本』でした(今でも授業で使用します).また,ジャパンタイムス等の英字新聞を買って読んだり(格闘したり),英文を暗唱する以外に,ギターを弾いたり,洋楽を聴きまくったりしていました.

英文を読んでいてわからないことがあると,1週間悩み続けるということもありました.しかし今では,このような学習スタイルは完全に過去のものとなってしまいました.

『共通テスト』では,英文以外にイラストや図表があり,何よりも素早く「情報を読み取る」能力が求められます.また,電子マネーや環境問題等,時代や国の政策と歩調を合わせるかのような「教育的」な側面が垣間見えます.

細かく見れば,特に「数量表現」や「事実・意見」の区別等,きちんと準備しておくべき事項は存在します.しかし総じて,『共通テスト』に向けての対策は,(基本的な読解力があることが前提ですが)短期記憶力を鍛えることと,「情報処理に長けた」頭脳を身につけるということになるだろうと思います.

今の時代,『英文標準問題精講』を自ら手に取るような高校生は皆無に近いと思いますが,当塾では,準1級レベルの生徒に対しては,ほんの少しですが,「人の良心が感じられるような,ぬくもりのある英文」を読んでもらうようにしています.

この点だけは,時代が変わっても譲れないと,最近は確信するに至りました.

今期取り上げる英文は以下の通りです.

  1. Why I Write (George Orwell).
  2. The Conquest of Happiness (Bertrand Russel).
  3. What is Enlightenment? (Immanuel Kant).

頑張りましょう!

あけましておめでとうございます

新年あけましておめでとうございます.旧年中は多くの生徒や受講者に恵まれ,充実した一年でした.本年もどうぞよろしくお願いいたします.

さて,生徒の皆さんは充実した冬休みを過ごしているものと思います.多くの人は,県外に出かけるようです.聞いた範囲では,TDLや海外旅行,さらにはアイドルのコンサートまで,皆さん予定がびっしり入っているようです.

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私はといえば,毎年正月はどこにも出かけず,積読状態の本を少しでも処理することを最優先にしています.最近は,Amazonや紀伊国屋で衝動買いした本をスピーディーに読了することが,普段の生活の中で大きな課題になっているのですが,日々雑務に追われてなかなか思うように進まず,困っています.

ちなみに今メインで読んでいるのは以下の三冊です.

1. Freedom Betrayed: Herbert Hoover’s Secret History of the Second World War and Its Aftermath

米国第31代大統領の回顧録.最近邦訳が出ましたが, Kindle版が安価なので原文を読み進めています.900ページ以上ありますが,半分程度まで進みました.

2. 外交感覚 ― 時代の終わりと長い始まり

京都大学で国際政治学を教えていた故高坂正堯教授の同時代史的考察を集めた時事評論集.私自身が大学・大学院で国際政治学を学んでいた時期と重なる部分もあるので,当時のことを思い出しながらゆっくり読み進めています.

3. 英語のセンスを磨く――英文快読への誘い (岩波現代文庫)

著者である行方昭夫氏の著作は大体目を通していると思いますが,黄色い表紙の旧版がとても勉強になったので,今回も迷うことなく購入.題材となる英文素材も一部刷新されており,新鮮な気持ちで楽しめそうです.高度な英文読解力を身につけたい人や翻訳を仕事にしたい人は一度書店で手に取って見てみましょう.本書以外にも,少し古いですが,『英語の読み方,味わい方』もおすすめです.

あとは,未読のペーパーバックやKindle本が大量にあります.例えばThe Lawless Roads (Vintage Classics) (Graham Greene, 一部はTravel Stories (MacMillan Literature Collections)に収録), Night Without End (Alistair MacLeen, Oxford Bookwormsにもある.映画化されたWhere Eagles Dareも傑作)なども冒頭部分しか目を通せていません.Timeや英字新聞以外に,優れた英文を日々インプットすることはとても重要だと考えていますが,なかなか落ち着いて読書に集中する時間が取れません.やはり今年も隙間時間を有効に使うことが最大の課題となりそうです.

複数の生徒が,学校の課題図書としてA Christmas Carol (Oxford Bookworms Library. Classics. Stage 3)を読むよう言われているようです.2学期中は当塾の授業でもJulius Caesarその他Shakespeareの作品を一緒に読み進めました.高校入学後早い段階で英語圏の古典に触れるのはいいことです.Graded Readersであればそれほど苦労せずに読めると思います. 旅行に出かける人は,移動の車中で読むことができます.願わくば,このような課題をきっかけに,読みたい本を自分で選べるようになってほしいものです.

Graded Readersを授業に取り入れて読解力の向上を図る

コミュニケーション志向の高まりと共に、英語学習でもスピーキングに対する意識が高まっています。当アカデミーでも、すべての生徒が英検を受験することから、毎回の授業と2次試験前の両方でスピーキングの練習をします。

一方で、今の日本の受験環境を考えると、4技能の中で一番重要なのは読解力です。大学受験、特に難関学部では出題される英語の長文化に拍車がかかっており、難易度も上昇しています。この点からも早い段階から国語力も含めた読解力をつけることが重要になります。

このような認識の下、普段の授業では生徒が気軽にリーディングに取り組めるよう、さまざまな工夫を凝らしています。

一例として、Graded Readersその他、和書・英書さまざまな書籍にいつでもアクセスできる環境を整え、ふだんの授業でも積極的に取り入れています。

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日本語であれ英語であれ、言葉というのは文脈(コンテクスト)の中で初めて命を持ちます。ドリルで文法を学び、テスト対策を行うことはもちろん重要ですが、それだけでは不十分であり、場面や状況といった生のコンテクストまで生徒の意識を向けるようにしなければなりません。

読書に対する姿勢は家庭環境が大きく影響します。ただし、過去に読書の習慣がない場合でも、カラフルな絵柄のテキストを見せるとほとんどの生徒は興味を示し、読書の習慣がついていきます。子供が本来持っている好奇心が開花するということでしょう。

授業では生徒のレベルや興味関心に応じて何冊かGraded Readersを選び、ゆっくりとしたペースで読み合わせを行い、互いに楽しく感想を述べたりします。

Graded ReadersにはCDも付属しており、ライティングやリスニングでも使用します。当アカデミーの生徒は、リーディングだけではなく、通常、中学1年終了時点で、シャドーイングやリテンションを応用したスピーキングやライティングの方法を一通りマスターします

所蔵テキスト: Adventure Stories, Travel Stories

当アカデミーの本棚には大量の本があり、初めて来た人はみなさんびっくりするようです。これらの本を置いているのは、会員の皆さんにできるだけ多く良質な本に触れてほしいからであり、人に見せびらかすのが目的ではありません。自宅にはもう置き場所がないというのは内緒です(笑)。

特に、中学・高校生の読書量の少なさには危機感を感じており、英語・日本語を問わず良質な本を紹介することも大切だと考えています。これらの本は、会員であれば学年を問わず自由に読んだり借りたりできます。

MacMIllan Readersは、Level 1 – 7 まであり、以下の2冊はその頂点に位置するLevel 7シリーズに含まれています(CEFRではC2)。個人的には旅行や単車でのツーリングが好きなこともあり、The Lawless Roads (Graham Greene)Long Way Round (E. McGregor & C. Boorman) が面白いと思います。さらには第二次大戦中の英軍パイロッについて描いたThe Sun Rises Twice (H.E. Bates) もおすすめです。ただし、平均的な英語学習者にとっては文章や語彙の難易度が高く、対象となる読者は社会人も含めた上級者ということになるでしょう。中高生向けの本もたくさんあるので、順次、ご紹介します。

  • Adventure Stories (MacMillan Literature Collections)
  • CEFR: C2

MacMillan Literature Collections Adventure Stories Advanced Level (Readers)

  • Travel Stories (MacMillan Literature Collections)
  • CEFR: C2

Travel Stories (MacMillan Literature Collections)

“読みのむずかしさ”と向き合う

高校に入ると、教科書以外にサイド・リーダーなどのサブ・テキストが支給されます。目的は、長文読解力を鍛えると同時に、社会に対する関心を持ってもらうためです。

ふだん高校生に接していると、リーディングが好きな一部の生徒を除き、長文を苦手に感じている生徒が多いように思います。例えば、長文を見ただけで「クラクラする」とか、読むのは問題ないが、下線部の和訳を面倒に感じるとか。当たり前ですが、日本語であろうと英語であろうと「読む」という行為は学習の基本であり、避けて通るわけにはいきません。したがって、英語の読解が苦手と感じる場合、自分にとって難しく感じるのはなぜか、その理由を分析し、前向きに対応策を考えなければなりません。

いうまでもなく、英語は日本語は言葉のロジックが大きく異なります。特に、英文の論説文などは一定のルールに基づいて書かれています。したがって、パラグラフ・リーディングやアカデミック・ライティングの知識のない日本人の高校生には、ちゃんと書かれている英文であっても、いや、ちゃんと書かれている英文だからこそ、逆に難しく感じてしまうのかもしれません。

また、文法は一通り勉強したのに、今一つ書かれてあることがわからずピンとこないという人、単語やセンテンス単位では意味は分かるが、パラグラフやパッセージ全体では主旨が読み取れないという人は、読んでいる英文のレベルが自分に合っているかどうかを見定める必要があります。特に高校では、各人の興味やレベルに関係なく一律にサブ・テキストが支給され、しかもそれが定期試験の範囲に含まれるため大変に感じる生徒が多いように見受けられます。さらにそれらの問題集の中には、前後の文脈が「?」と思うような英文、出典が記載されていないか、理由もなく元の英文に変更が加えられているテキストがあったりします。

では、具体的にはどうすればよいのでしょうか。たとえば、昔読んだテキストの中に以下のような記述があります。

「…そこで与えられた英文の意味を理解するということであるが、これにはその基礎として二つの面が考えられると思う。…

一つは形式的、機械的な面であり、もう一つは内容的、思想的な面である。…」(『英文をいかに読むか』朱牟田夏雄著)

時事的・現代的なテーマが多く出題される近年の大学入試の傾向からすれば、「思想」という言葉は古いかもしれません。要は、日本語であれ英語であれ、言葉のルールを学び、それと同時に、自ら知識を深めて「中身」を充実させよ、ということです。

英文の論説文は一定のルールや方法に基づいて書かれてると述べましたが、これらのルールは授業やテキストで学ぶことができます。しかし、世の中の知識については自分で学び、身に着けるしかありません。知識というのは、空から降ってくるものではなく、自分で取りに行くものです。「待ち」の姿勢だけでは知識は自分のものになりません。ものを知らないということは、これから「知る喜び」が得られるということです。大いに楽しみましょう。

とはいっても、何から手を付けたらいいのかわからないということもあるでしょう。いろいろな考え方があると思いますが、今までの経験から、「良質な英文が使われている」やさしいテキストを使った多読を実践することを強くお勧めします。英語が上達するということは、意識的に学んだ文法などのルールが無意識のレベルに落ちていくプロセスであるともいえます。そのためには、問題を解くという作業とは別に、やさしくかつ良質な英文を大量に吸収する必要があります。

先にも述べたように、学校で支給される受験勉強用の問題集には、さまざまな制約から「良質な英文を多読する」ための条件を満たしていないものもあります。そこで、興味のある人には、Oxford BookwormsやPenguin ReadersなどのGraded Readersにぜひ目を通すことをお勧めします。これらのテキストは、Les MiserablesやAnne of Green Gablesなどの有名な文学作品以外に、Appolo 13やSaving Private Ryanなどの映画、Martin Luther KingやAudrey Hepburnなどの評伝もあり、中高生が読んでも楽しく、やさしいレベルからステップアップすることができます。Graded Readersのいいところは、自分が学んだ文法などのルールを文脈の中で体感できることであり、先に引用した「二つの面」をあまり意識せずに済むことです。そして何よりも、「自分で」知識を得たいという欲求を刺激してくれます。書店に行く機会があれば、ぜひ手に取ってみてください。