英検 が終わったら何をするか: ライティング編

2015年第2回の英検 結果が公表されました。今回も2級の合格者が出ました。

さて、今回めでたく合格した人はこれから何をすればいいのでしょうか。試験好きで真面目な日本人のこと、さらに上位の級に向けて試験対策に取り組もうと考えている人もいるのではないでしょうか。当塾も英語塾である以上、当然そのような対策授業をおこないます。しかし、そのような試験対策に比重を置いた英語学習は、英語習得プロセス全体においてごく一部を占めているに過ぎません。試験対策中は真剣に取り組み合格を目指し、試験が終わったら早く対策モードから抜けて日々の生活の中に英語を取り入れることを意識しましょう。

英語を「対策」や「スコア」という観点でのみ捉えていると、英検 などの試験対策以外で英語に接することが少ないため、様々なジャンルの英語をバランスよく吸収できません。場合によっては英語力が頭打ちになり、英語自体から離れていく可能性もないとは言えません。一方、普段からペーパーバックを読むなど、生活の中に英語が根を下ろしている人は、歯を磨いたり呼吸をするのと同じように自然と英語と接しています。たとえ海外に行く機会がなくても、そのような人は立派な英語人であると思います。

当塾では、会員の中心が中学・高校生ということもあり、このような認識に到達するのは早すぎるため、どうすれば普段の生活の中に英語が根をおろすかを考えながら授業をおこなっています。英検に合格したりTOEICで高得点を取得することは、本人にとって大きなモチベーションや自信につながるので、真剣に取り組むことが大切です。同時に、めでたく合格した生徒には、それぞれのレベルに応じて試験後にたっぷり英語に浸れるよう、一人一人に対して課題を課します。

具体的には、英検に合格して有頂天にならないよう、多読や多聴、多筆等、たっぷりとインプット・アウトプットに励んでもらいます。特に英検後は、日本人英語学習者にとって手薄になりがちな英文筆写を中心としたライティングに取り組むことを推奨しています。英検対策中は、リスニングや音読に集中して取り組むため、声を出すことに疲れている人も多いことでしょう。一方、英文筆写は一人で静かにまたは好きな音楽でも聴きながらマイペースで楽しく取り組むことができるというメリットがあります。

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題材は英検 やTOEICに出題されるような試験用の英文は使用しません。小説や随筆、歴史や哲学書といった今の日本人があまり読まなくなった文章、その中でも名文と言われる文章をレベルに合わせて選んで使用します。何も考えずに書き写すのもいいし、最初に音読してリズムをつかんでから書き写すのでも構いません。どちらの場合も、短時間で英文を脳にインプットしつつ、ただ静かに書き写していきます。國弘正雄先生がかつて提唱した「只管筆写」の方法です。

英語を「ツール」や「スキル」として捉える風潮の強い時代の表れなのかもしれませんが、今の高校生が読む、あるいは読まされる文章には、書き手と対話・格闘するに値する英文、物事を深く考えさせる英文が少ないように思います。特に、将来留学したり国際的な分野でコミュニケーションすることを想定すると、時代や国を超えて受け継がれた優れたものの考え方に、英文を通して触れることには大きな意義があると考えています。

テキストは、好みや難易度に応じて好きなものを選べばよいでしょう。OUPMacmillanなどのGraded Readersであればレベル別に選択が可能です。また翻訳付きの対訳本や著名な英文学者の解説が付いている文学や随筆などもよいと思います。文学は、いわば言葉の芸術ですが、このような芸術作品は英検やTOEICではお目にかかれません。映画好きであれば、The Phontom of the Operaなどの有名作品やHarry Potterシリーズでもよいでしょう。物語形式の英文であれば、一流作家が話の「コンテキスト」に細心の注意を払って書いた生の会話文を学ぶことが可能です。また短編集であれば、量が少なく気に入った箇所のみ書き写すことができるため、負担が少なくて済みます。

瞬間英作文は正しい文法で

英語習得に王道はありません。ただし、個人で学習する場合は、どうしてもアウトプットが手薄になりがちです。

大学受験でも、古典的な和文英訳から自由英作文まで多様な英文ライティングが課されることから、受験生は各自の志望学部に応じたライティング力をつけておく必要があります。

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言うまでもありませんが、アウトプットの前提には豊富なインプットが必要です。その気があれば、基本的な文法と構文学習を一通り終えた後は多読の実践をお勧めします。ただし、部活等で十分な時間が確保できない場合は、簡単な例文を一定量暗記すると、後で大きく生きてくると思います。

このような考えの下、ふだんの授業では、学習進度を考慮の上、主に高校生ですが例文の暗記に取り組んでもらっています。短文の暗記はシンプルな行為のため、数か月という期限を設定すれば忙しい高校生でも十分続けられると思います。

具体的には、毎週決めた数の例文を暗記し、瞬間英作文の要領でアウトプットを行い、さらにパターンプラクティスまで実践します。

高校生の場合は大学受験を念頭に置く必要があるため、自由に話せるようになりたいという目標は持ちつつ、文法的な正確さを維持することが大切になります。テキストを選ぶ際は、英文がシンプルで、「SVO」等の文型表示が記載されているものを選ぶとよいでしょう。

ライティングは万年筆で!

英語習得では、一定量の書き取りは欠かせません。

特に、小学校高学年から高校生の場合、早い段階で書くことに対する心理的な抵抗を払しょくする必要があると考えています。

普段授業で書き取りを指示すると、こちらから提案しない限り、生徒たちのほとんどがシャープペンシルを使用します。そこでこう言います。

「万年筆を使ってみようか?」と。

多くの生徒は「えっ?」という顔をします。
なぜなら、日本では日常的に万年筆を使う生徒はあまりいないからであり、想定外のことだからです。

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では、なぜ万年筆を使うとよいのでしょうか。

一番の理由は、それが「心地よい」と思われるからです。
決して主観だけで言っているのではありません。
現に、今でも多くの作家が万年筆を使っていることはよく知られています。

英語習得で一番大切なのは、心地よく学ぶということではないでしょうか。英語と日本語は大きく異なる言語であり、どうしても中・長期的に学ぶ必要があります。そしてそのためには、そのプロセスが苦行であってはならず、頭と体の負担を少しでも軽減するよう配慮しなければなりません。

何も言わずに生徒たちの書き取りを見ていると、必要以上に筆圧が高い子が多いように感じます。指、手首、腕、そして肩がガチガチなのです。そして、硬い下敷きを敷き、先の細いシャープペンシルを使い、ガリガリと文章を書いていきます。そしてどこかで必ずボキッと芯が折れ、字を間違えると今度は消しゴムに持ち替えてバタン・バタンと机をたたくように消しかすを掃除します。

考えすぎといわれるかもしれませんが、良質な英文と向き合った時に感じる流れるような思考が妨げられているように思えてなりません。

また、字の書き方という点で見ると、役所の文章のように小さな字をぎっしりと、あるいはきっちりと書く生徒もいます。私自身が字がきれいな方ではないせいか、「お見事!」とうなってしまうこともしばしばです。

各人の個性は尊重します。でも個人的には、ストレスを感じることなく、のびのび・すらすらと書いてほしいと思います。また、万年筆で書くことを体験した生徒の多くは、その後、めきめきと書き取りが上達します。書き取りはテストではありません。間違えたら、横線でも引いて書き直せばいいだけです。

力を抜いて体にかかる負担を減らせば、自分では気づかないかもしれませんが、頭と心に余裕が生まれ、落ち着いた気持ちで学習できるようになると思います。

子供に英語を学ばせたいと考えている親御さんは、ぜひ万年筆をプレゼントすることから始めてみてはいかがでしょうか。

多筆のすすめ

最近では、日本でも英語の学習に多読が効果があることはよく知られるようになってきました。
日本国内で英語の環境にどっぷりとつかることは難しいため、限られた環境の中で良質な英語に触れるには主体的な学習が必要があり、そのための効果的な方法が多読ということだと思います。

裏を返せば、英語の上達には、とにもかくにも英語に接する時間を増やすことがやはり必要であり、文法などを「学習」しただけでは感覚的に英語を理解することが難しい場合があるということです。

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一方で、この多読を一歩先に進め、「多筆」(たくさん書くこと)まで取り組んでいる学習者は少ないのではないでしょうか。学校などの指導現場では、学習指導要綱の変更に伴い、ますますオーラルを重視するようになっています。

しかし、「読む」から「話す」に至るプロセスで、この「書く」という側面がどうも軽視されているか、曖昧になっているように思います。大学受験では推薦入試などを除き、口頭試験で英語の能力を一律に測ることは現実的に困難であるため、今後はますます英作文の比重が高まるものと予想されます(最近では自由英作文という形式もあります)。しかし、いきなり英文を書けと言われてもそう簡単にできるものではありません。高校生は3年生ともなればもう大人に近いのであり、物事を考えるときのベースは日本語です。その段階でネイティブに理解可能な英文をひねり出すのは至難の業です。

さらに、パラグラフ・リーディングやトピック・センテンスなどという専門用語を聞いても、そもそも普段からたくさん読んだり書いたりしていなければ、体感的に理解するのは難しいと思います。英語の習得にはスポーツと同じ側面があり、文法や理論を「学習」しただけではまったく不十分であり、「量」を意識することが欠かせないということだと思います。

では、「量」を意識したこの「多筆」にはどのような効果や意義があるのでしょうか。
これについては、次のエントリで書いてみたいと思います。