学習英和辞書の比較 -01

代表的な英和辞書3冊、『ジーニアス英和辞典第4版』(2006年)、『ウィズダム英和辞典第3版』(2012年)、『アドバンストフェイバリット英和辞典』(2000年)を比較します。

■「challenge」(動詞)

1.語源・原義

●ジーニアス

【源義:偽りの告訴】

●ウィズダム

記載なし

●アドバンストフェイバリット

【語源「中傷(する)が原義】

2.語義配列

●ジーニアス

①[SVO]<人が><陳述・資格など>に対して (その妥当性を) 問題にする,疑う (question); ・・・に異議を唱える,たてつく; <人>の[~に] 異議を唱える [on]
②[SVOM]<人が><人>に[試合などを]挑む[to];<人・能力など>を試す,<人に>・・・するようにと挑む,・・・する気を促す
③[軍]・・・を誰何する

●ウィズダム

1.<人が><意見・考え方など>について異議を唱える,...を疑問視する;《…について》<人に>異議を唱える《on》;〘~A to do〙A<人>が…することに異議を唱える
2.<人が><人>に挑戦する,<人>と競う;〘~A to do〙A<人>に…するよう挑む[言う];〘~A to do〙A<人>にB<勝負など>を挑む
3.<人・物などが><人など>の能力を試す,<人>をその気にさせる;〘~A to do〙A<人>を…するよう刺激する
4.誰何する.
5.〘法〙<陪審員など>を忌避する.

●アドバンストフェイバリット

①<人に>(・・・を/・・・するように)いどむ,挑戦する.
②<真偽・合法性・正当性などを>問う;・・・に異議を唱える;・・・に釈明[証明]を要求する;・・・を疑う
③<仕事などが><人・能力を>試す;<人の>興味をそそる;<人に>やる気を起こさせる;<意欲を>刺激する.
④<衛兵・警官などが><人を>呼び止める,誰何する
⑤〔法律〕<陪審員を>忌避する;⦅米⦆<投票人に>資格がないと主張する

英英辞書であるか英和辞書であるかを問わず、辞書の語義配列には、大きく分けて「歴史順」と「頻度順」の2種類があります。今回取り上げた辞書はすべて、語義配列が「頻度順」です。

今回取り上げた辞書はすべて頻度順を採用していますが、3冊を比較すると、以下のことが分かります。

■文型表示について

・ジーニアスは、[SVO]などの文型表示が行頭に明記されており、見やすく、大変便利である。

・ウィズダムとアドバンストフェイバリットは、語義の後に文型が記載されており、細かく目で追う作業が必要になる。

■語義について

・アドバンストフェイバリットを除く2冊の第一語義は「異議を唱える」である。

頻度順」の語義配列は、出版された当時の判断に基づいていますから、アドバンストフェイバリットの改訂版が出版される際には、順序が変わる可能性があります。

3.例文

最近の辞書は、世相を反映して、コミュニケーション志向が強く、語法やコロケーションその他の情報が充実しています。一方で、辞書の命は語義と例文の質だという考え方もあります。そこで次に3冊の辞書で使われている例文を見てみることにします。

先に述べたように、アドバンストフェイバリットのみ語義の順序が異なりますが、比較しやすいようにここでは共通する語義である「異議を唱える」(および同一項目内の日本語訳)について見てみます。

●ジーニアス

I didn’t think she was right, so I ~d her.

彼女が正しいと思わなかったので,彼女に異議を唱えた.

~ the juror [array]
〘法〙陪審員[全陪審員]を忌避する.

●ウィズダム

His research challenged traditional beliefs.

彼の研究は伝統的に正しいと信じられていたことに疑問を投げかけた.

We challenged the police to arresthim [on his arrest].

我々は警察が彼を逮捕することに[彼の逮捕について警察に]異議を申し立てた.

●アドバンストフェイバリット

The people challenged the government on its tax policy.

国民は政府の税制に異議を唱えた.

challenge authority [a verdict] 権威[評決]に異議を唱える.

ここでも面白いことが分かります。

1. ジーニアスの第一語義で重要語義は「問題にする」だが、例文の日本語訳は「異議を唱えた」である。

2. ウィズダムの第一語義で重要語義は「について異議を唱える」だが、例文の日本語訳は「疑問を投げかけた」である。

3.アドバンストフェイバリットの第二語義は「に異議を唱える(「問う」との間で重要度の優劣はないと判断)」であり、例文の日本語訳も「に異議を唱える」である。

普通の高校生の感覚だと、ジーニアスの第一語義で重要語義がわざわざ太字で「問題にする」となっているのに、なぜ例文の日本語訳が「問題にする」ではなく「異議を唱えた」なのか、一瞬「あれっ」と思うかも知りません。同辞書の「この辞書の使い方」には、以下の記載があります。

「語義は、説明的な訳は避け、なるべくそのまま訳語として使えるような形で示すようにした。」

太字の「問題にする」は重要語義であり、この語義がそのまま使えるような例文と日本語訳を工夫してほしいという印象です。

ウィズダムはジーニアスとは逆のパターンで語義「について異議を唱える」と例文の日本語訳「疑問を投げかけた」が異なります。

ここでも一瞬「あれっ」と思うのですが、翻訳という視点で見てみると、この「疑問を投げかけた」はジーニアス「問題にする」よりも高度な日本語訳だと思います。ひと手間かけているという印象です。

最後はアドバンストフェイバリットです。この辞書の場合、語義と日本語訳が共に「に異議を唱える」で、完全に同じです。直球勝負という印象です。

学習英英辞書の比較- 01

レベル: 高校生以上

基本的な単語を例に、それぞれの辞書の定義や説明を比較してみようと思います。例として取り上げる単語は「challenge」(動詞)です(便宜上、最初の語義のみ掲載します)。

1. Longman Dictionary of Contemporary English, 5th Edition, 2009 (LDCE)

challenge2 S3 W3 AC

1. QUSTION SOMETHING to refuse to accept that something is right, fair, or legal:

a boy with a reputation for challenging the authority of his teachers.

challenge a view/an idea/an assumption etc

Viewpoints such as these are strongly challenged by environments.
They went to the High Court to challenge the decision.

challenge somebody to do something

I challenge Dr. Carver to deny his involvement!

2. Collind COBUILD Advanced Learner’s English Dictionary, 5th Edition, 2006

4. VERB V n to-inf, be V-ed, V n on/about n, also V with quote, V n

If you challenge ideas or people, you question their truth, value, or authority.

Democratic leaders have challenged the president to sign the bill…

The move was immedeitely challenged by two of the republics…

I challenged him on the hypocrisy of his political attitudes.

3. Oxford Advanced Learner’s Dictionary, 8th edition, 2013 (OALD)

1. ~sth to question whether a statement or an action is right, legal, etc; to refuse to accept sth syn dispute

The story was completely untrue and was successfully challenged in court.

She does not like anyone challenging her authority.

This discovery challenges traditional beliefs.

LDCEでは、話し言葉や書き言葉で使用される重要語が、頻度別に「S1, S2, S3」、「W1, W2, W3」で分類されており大変便利なのですが、高校生の段階では参考程度に見ておくくらいでいいと思います(学術論文などで使用可能な「AC」の分類も記載されています)。付属のCD-ROMも秀逸で、COLLOCATIONSやTHESARUS、PHRASAL BANK、EXAMPLE BANKなどが色分けしてあり、簡単にアクセスできます。

また、ここには書いていませんが、Longmanには、Longman EXAMS Dictionaryという優れた辞書があり、特にアカデミック・ライティングで大変重宝します。

Cobuildは、フル・センテンスでの定義が、英語の好きな高校生であれば十分理解でき、かつ分かりやすいのではないかと思います。「VERB V n to-inf, be V-ed, V n on/about n」など独特の記号が並んでいて最初は戸惑うかもしれませんが、慣れれば逆に便利です。また、付属のCD-ROMも使い勝手がよく、反意語や、膨大な量の例文に素早くアクセスできます。

OALDは、あまり知られていませんが、1948年に日本で生まれた辞書です。語義はフル・センテンスではありませんが、同義語「syn」の記載、language bankの類義語等、関連情報へのアクセスに優れています。さらにexample bankの豊富な例文は大変貴重です。

最近の辞書しか知らない高校生は気づかないかも知りませんが、最近の英和辞書は語法の説明が細かい反面、例文の数が犠牲になっています。英英辞書の豊富な例文を読み込み、音読することで、英語力・文脈力がアップすると思います。

基本的に、これらの英英辞書はみな、付属のCD-ROMが大変よくできており、PC上で使用することで利便性が大きく向上します。特に大型ディスプレイを縦型表示で使用すると、一覧性は抜群です。自宅でPCを自由に使える高校生はぜひ試してみてください。