去年あたりから国内の医学部への進学を希望する高校生からの入塾相談が見られるようになりました.これまでも理系志望の高校生はいましたが,大抵は工学部・理学部に進む生徒であり,入塾相談の段階から医学部受検を明言する生徒はあまりいませんでした(中には,中学の段階から医学部志望を明言する生徒もいます).
それとなく確認したところ,現在は在籍生徒の半数近くが医学部を志望または選択肢に入れているようで,しかもほとんどが女子生徒です.男子の場合は,父親が医師であっても医学部以外の理系学部に進む生徒や,医学部を志望しつつも,心の中ではゲームやITに対する興味・関心が強く,中には医師の仕事をしながらゲーム実況も頑張りたいと考える猛者もいるなど,女子とは考え方が異なります.
このような傾向を踏まえ,去年から北陸の主要大学である富山大学と金沢大学の医学部・過去問に対する分析を続けてきたところです.それらを踏まえて言えるのは,特に富山大学の場合,現役生が自力で対処するのは難しいだろうということです.
例えば富山大学の入試問題ではScienceのエッセイが好まれる傾向にあります.腸内細菌等,体内の細胞に関する新しい発見であったり,職業の選択や軌道修正で悩む大人の体験談が主な内容ですが,受験生である高校生はこのような専門色の濃い英文を制限時間内に読みこなし,最後にはポイントを絞ったエッセイとして仕上げる必要があります.
いったいどれだけの高校生が,普段の勉強で科学紙ScienceのWebサイトに自らアクセスし,出題傾向を踏まえた上でエッセイや論文をダウンロードし,自力で読みこなし,ポイントを絞ってコメントし,最後に250ワードのライティングとして仕上げることができるのでしょうか.
富山大学・医学部の一般入試に現役で合格する県内高校生の人数は把握していませんが,学校から機械的に与えられるドリルやプリントをこなすだけではかなり厳しいと言わざるを得ません.
中学時代から当塾で学んでいる医学部志望の高校生であっても「Ph.D(博士号)」や「postdoctoral(ポスドク)」などの用語や制度については知らないケースがほとんどであり,授業では英語圏の教育・雇用システムについて解説するところから話を始めることになります.
誤解を恐れずに言えば,海外の高等教育や医学用語に関する知識は必須ではありません.なぜなら,多くの受験生は意識していないと思いますが,実は大学入試には「未知の情報に接したときの対応力・思考力」を問うという重要な側面もあるからです.上記の点について言えば,「Ph.D」や「postdoctoral」について知らなくても,文脈に応じて「その場で想像しながら考える力」も必要なのであり,さらに踏み込んで言えば,そのような「物事を類推・抽象化する力こそが,大学側が見極めたい力」なのかもしれないということです.
医学部を目指す位の向上心がある生徒であれば,説明を聞けば初見の内容でも大抵のことは理解できます.それでも「キャリア・パスの変更等,大人の事情が絡む(しかも海外)」エッセイが読めるようになるにはある程度の時間と労力が必要です.間違っても,指導する側が「リーディングは諦めてライティングに注力しなさい」などと生徒に言ってはなりません.
Covid-19の収束が不透明な中,医療の分野に進み,本気で世の中に貢献したいと望む生徒が多いのは大人として喜ばしいことです.このような生徒たちの思いが叶うよう,授業で精一杯応援したいと思います.志のある高校生は遠慮なくご相談ください.